吉村酒造株式会社
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■日本の酒(講演集)


(10) その他の醗酵酒


 その他の醗酵酒としましては、「チェリー」とか「アップル」などの果実汁から造ったもの、また蜂蜜を原料とした「ミード」、或いは「濁酒」、或いは中国の「紹興酒」「老酒」、中東の方で飲まれている山羊の「クーミス」、韓国には高梁を用いた「マッカリ」等があります。



(11) ウイスキー


 次に蒸留酒に入りまして、ウイスキーの話をします。製造法は先ずビールと同じ様な方法で、「もろみ」を造ります。只ビールの場合は途中でホップを入れますが、ウイスキーの場合はホップを入れない。それから麦芽を乾燥致します時、ウイスキーの場合は泥炭でいぶす。すなわち燻蒸する。この香がウイスキー独特の芳香に寄与します。そうして出来た「もろみ」を、ポットスチールという簡単な蒸留器で蒸留します。

 蒸留直後は大体60%くらいのアルコール分がありますが、これは非常に青臭いもので、凡そウイスキーとは縁遠い何ともいえぬ香りを致していますが、これを樽につめまして、長年貯蔵しますと、樽からの香り、或いはアルコールの熟成によって、所謂モルトウイスキーとなります。

 このモルトウイスキーにグレンウイスキーといわれる穀物からとりましたウイスキーをブレンドし、製品と致します。所謂スコッチは、昔はモルトウイスキーばかりだったそうですが、10年、20年と貯蔵いたしますと、味は熟成して円くなってきますものの、樽の香りなどが強くて、かえって飲みにくくなります。ある時スコッチが余り高いものですから、安く売るためにグレンウイスキーをブレンドして出してきたところが却ってその方が飲み易いというので、一部の人に次第に飲まれだす様になりました。

  当時この様なブレンドウイスキーにスコッチウイスキーという名前をつけるのはけしからんという猛反対があったそうですが、現在では殆どブレンドウイスキーとなっています。現在、日本のウイスキーも勿論このブレンドウイスキーが主流です。

※モルトウイスキーは、麦芽(モルト)を発酵させて単式蒸溜器(ポットスチル)で2回蒸溜し、オーク樽で熟成したウイスキーで、風味の個性が強いため「ラウド(声高な)スピリッツ」といわれています。
これに対して、グレンウイスキーは、麦芽とトウモロコシ、ライ麦、小麦などの穀類を原料として、連続式蒸溜機で蒸溜し、オーク樽で熟成したウイスキーで、風味の軽い穏やかな性格のため「サイレント(静かな)スピリッツといわれています。



(12) ウイスキー(級別)


 日本のウイスキーの場合は、法律で級別が定められていまして、これが即ちモルトウイスキーの混和率になっています。特級として出す時には少なくとも23%以上はモルトウイスキーを入れなさい。1級の場合は、13%〜23%。2級の場合は13%以下でも結構ですというのです。

 ですから合成ウイスキーと申しますか、モルトウイスキーの全く入っていないウイスキーが2級にはあるといえる訳であります。ただ、「モルトウイスキー」、又の名、「本格ウイスキー」といわれるものは良く言えば「特徴」、悪く言えば「クセ」が強く、少し飲むには良いが沢山は飲めません。そういう意味ではブレンドウイスキーの方が飲み易く、現在の嗜好にマッチしているといえます。

  その他のウイスキーとしては、グレンウイスキーや、アメリカやカナダのトウモロコシを原料としたバーボンがあります。

※土田先生の講演当時は、ウイスキーの税率は、級別区分(特級、1級、2級)による段階的なものと製品価格に影響された従価税の併用でしたが、英国のサッチャー首相の提唱に端を発して騒動になり、最終的には「GATTの裁定」という外圧によって、1989年の級別廃止の酒税法改正が行われました。

これに伴い、現在では、アルコール度数と容量で算出が簡単にできる従量税を採用しています。



(13) ブランデー


 ブランデーは、一般的には果実酒を蒸留したものであります。ブランデーといえばブドウから取ったものだと理解されているようですが、本当はその他にもチェリーブランデーなどがあります。ブランデーも原料のブドウが良ければ良いブランデーが出来ます。

 先程のブドウ酒の折に言い忘れましたが、ブドウ酒とは古いほど良いとお考えの方もおられるかも知れませんが、これは品質的には決してそうではありません。本当に美味しいのは2年か3年熟成したものでそれを越すと品質は実際には落ちてきます。
ヨーロッパでも3年か5年に1度良い果実の採れる年があり、そのような年には当然、良いブドウ酒が出来る訳ですが、そういった年のブドウ酒は非常に珍重され、年を経るに従って高価となり、10年、20年後には骨董的な価値を呼んで来ることになります。しかし実際には、やはり醗酵酒ですので、おいしさの年限があります。



(14) ブランデー(種類)


 一寸脱線しましたが、ブランデーは、ブドウ酒を蒸留したもので、これは何と申しましても フランスのコニャック地方に産しますブランデーが一番有名で、通称コニャックという名を以って呼ばれています。アルコール分はウイスキーと同じく、40%〜45%位、瓶にそれぞれ「スリースター」「VO」「VSO」「VSOP」「XO」等の品質を示す表示がなされています。

 これは日本の「特級」「1級」「2級」といった官制の表示ではありません。各メーカー独特の品質基準であります。従って同じVSOでも各社によってそれぞれ品質が違う。言い換えれば同じVSOでも1本1万円のVSOもあれば、1本2万円するものもあるということであります。

 その他、Extra或いはナポレオン等の名称がつけられていますが、それは それぞれのメーカーのブレンダーが、1つの基準を作っていまして、それによってこの名称をつけて売っていると聞いています。
その他 蒸留酒にはジンとかラムとかウォッカなどがあります。



(15) 焼酎(しょうちゅう)


※酒税法上ではひらがなの「しょうちゅう」ですが、再編集により「焼酎」と変更させていただきました。

我が国古来の蒸留酒としては「しょうちゅう」がありますが、一寸最近のブームとなっています。焼酎は味も香りもなく若い人達が召し上がる時に、これをベースにして色んなものを混ぜて飲む、そういう有利さがあるのと、価格が手頃という、その2つからブームになったと思われます。
戦後、酒のない時代の「メチールの入った焼酎」とか、或いは「カストリ焼酎」とかが、頭にありますので、焼酎はどうも不味いとか、安物であるというようなイメージが非常に強いわけですが、最近はむしろ焼酎ベースのカクテルを造って、その時々のTPOで飲むという感じで焼酎が非常に良く売れています。全国でも去年の売上げの130%となっています。
 焼酎には甲類と乙類の2種類がありまして、甲類の方は純粋のアルコールに近いものでありますが、乙類の方は、ウイスキーと同じ様に、ポットスチールで蒸留しますので、アルコール分だけではなく、それぞれの原料から来るフレーバ等が、その焼酎に乗ってまいります。これもやはり強すぎますと、若い人の嗜好に合いませんので、イオン交換樹脂をかけたり、或いは炭素濾過をしたりして、ある程度香りを抜いて出しています。

※土田先生の講演当時は、宝酒造の「缶チューハイ」が大ヒットし、焼酎ブームが到来しました。これを「第一次焼酎ブーム」と呼んでいます。現在は、乙類の本格焼酎がブームで、第二次焼酎ブーム(地酒焼酎ブーム)といわれています。
甲類は連続式蒸留機によって連続的に蒸留し、精留します。これに対して、乙類は単式蒸留機を用いて1度だけ蒸留します。単式蒸留では、常圧蒸留法と、減圧蒸留法の二種類が確立されました。
常圧蒸留は地上と同じ1気圧で、もろみ(アルコール含有物)を沸騰させるため蒸留液に多くの香りが移行し、原料由来の風味ゆたかな焼酎ができます。 
一方、減圧蒸留は、蒸留機内部の気圧を0.1気圧位まで下げ、もろみを低温で沸騰させるために、従来の常圧蒸留法に比べて格段に香りを穏やかに抑えることが可能となりました。


因みに、「そば焼酎」とかいうのがございますが、蕎麦を原料として造った「蕎麦焼酎」を15%以上入れれば「そばしょうちゅう」と銘打って出せるということになっています。なぜそういった基準が出来たかと申しますと、現在市販されている蕎麦、中にはうどんに近いのがありますが、15%そば粉が入っていれば、お蕎麦として出せるのだからだそうです。



(16) みりん


 次にみりんは、昔は焼酎と混ぜて「本直し」或いは「柳かげ」という名で飲まれていましたが、今は殆ど調味料として使われています。白酒はお雛様の時だけしか使われませんが、これはみりんに予め水につけておいた米を入れて、そしてすりつぶして、ああしたドロッとしたものにしたものです。



(17) リキュール


 その他、色んな薬味を入れた薬味酒があります。リキュールは非常に種類が多く、果実を主原料としたキュラソー、スロージン、香薬草を主原料としたアブサン、ペパーミントなど、それからコーヒー、紅茶を入れたクリーム系といわれるリキュールもあります。とにかく色々なリキュールが売られていますが、食後の酒として僅かに飲まれるという程度であり、量的に多く売られているものではありません。
 以上申し上げてきたように、酒というのは各国それぞれの気候風土によって培われて来たもの、原料入手の難易さも当然これに関連がありますが、ともかくそれが長年の経験で、精選され、よく飲まれるものだけが現在に残って、それぞれ定着して来たと考えられるのであります。

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