吉村酒造株式会社
サイトマップ
自然を楽しく、おいしく。


■日本の酒(講演集)


(18) 日本酒(原料の米)


 いよいよ日本酒に入りますが、日本にもともとある米を原料として作られたのが日本酒であります。所謂酒造好適米というのを使っています。これは玄米千粒の重さが大体30g〜33g位の大粒種であります。

 皆さんが召し上がっておられる米、コシヒカリ等、一般に市販されている米は、大体20g〜23gであります。それに比べて非常に良い米を使っているという事が申せます。因みに玄米が現在1俵(60Kg)当り19000円〜20000円位ですが、こうした大粒種になりますと、更にそれに4000円〜5000円の奨励金をつけねばなりません。それでも風で倒れやすいということ、収量が少ないなど、農家でなかなか作ってくれません。



(19) 日本酒(精米について)


 このため全部好適米が使えるという状態ではなく当然一般食糧米も使わざるを得ません。このような玄米を先ず精米致すわけでございますが、皆さん方が召し上がっている飯米は玄米100に対して通常90%位に精白してあります。

 ところが訳の場合は70〜75%の白米となるように精米します。特に吟醸酒というのは更に白く、50%から40%まで精米しますので、真珠の小さい粒のように丸いものになり、このような白米を、水洗いをして、それに一定量の水を吸わせまして甑(コシキ)という蒸篭(セイロ)の大掛かりなもので蒸すのであります。




(20) 日本酒(麹・酒母・仕込み)


 こうして出来た蒸し米に、独特の黄麹菌、種もやしといいますが、これをふりかけ40時間から42時間位で、麹を作ることが出来ます。皆さん方も召し上がっておられる味噌とか、醤油に使う麹も同じ様な手法で作っています。一方先程申しましたように、酒造りには酵母が必要であります。その酵母を培養する為に、酒母または(モト)ともいいますが、これを予め造っておきます。これはフラスコなどで培養した酵母を更に酒母の中で拡大培養するとお考え戴ければ結構であります。この辺は長年の経験によりまして一定の配合方法が出来ています。

 酒母を原料にしまして、それへ蒸し米と麹と水を仕込んでいく。仕込み方法もフローシートにございますように、3段階に分けて仕込みます。即ち初添、仲添、留添と計4日間は要します。仕込みは3回ですが4日間に分けて仕込む。その理由としましては酒母というもので或る程度、酵母を培養してございますけれども、1つの醪を仕上げるためには尚酵母数が足りない。

 従って蒸米、麹を段階的に加えて酵母の培養を図って行こうという考え方で3段仕込みと言っています。
これなんかは、本当に現在でこそ化学が発達しまして、色々な理由づけがされていますけれど、こうした仕込方法が江戸時代に或る程度確立されていた事を考えると、昔の酒造家の科学的な実施法を痛感させられます。


※通常、酒母は仕込み全体量の7カラ%程度と少ないので、大量の原料(蒸米・麹・水)を一度に添加して仕込むと酒母中の酸度と酵母数の割合が急激に低くなってしまうので、酵母の増殖が追いつけず、雑菌に汚染される可能性が高い。そこで何回かに分けて添加し、適切な酵母の増殖を図りながら仕込む方法がとられた。これを「酘仕込み」や「段仕込み」または「段掛法」といい、古来より行われてきました。

1日目は「初添」といって、酒母に水+麹+蒸米を加えます。(12℃〜13℃で仕込)
※ 酒母の3倍量になります

2日目は「踊り」という休日をとって、酵母の対数増殖を図ります。

3日目は「仲添」といって、更に水+麹+蒸米を加えます。(9℃〜10℃で仕込)
※ 酒母の7倍量になります

4日目は「留添」といって、更に水+麹+蒸米を加えます。(7℃〜8℃で仕込)
※ 酒母の14倍量になります

そして、4日間の仕込みが完了する訳です。 配合はある程度決まっていますが、各蔵で、配合の割合を調整させています。

仕込みが進むに従って温度を下げていくのは、容量の増加によって物量中の乳酸濃度が低下し、雑菌に汚染されやすくなるため、温度を下げて安全性を高めるのです。



(21) 日本酒(・上槽・貯蔵・出荷)


 また、詳しく説明を申しませんでしたが、酒母のところに書いておきました様に、この昔からの製造方法による酒母を生(キモト)といっていますが、これなど現在いわれている酵母の純粋培養を全く経験からだけであみだしたという点、昔の人の偉さに驚愕する次第です。ただ、この方法は大変手間がかかりますので、現在は簡略化した方法(速醸)を採っていますが、酒母造りの基本的な考え方は昔と全く変わっていません。

 さてこうして仕込んだ醪は大体20日位でアルコール醗酵を終えて熟成醪となります。この熟成醪を酒槽(サカブネ)に入れて、清酒と酒粕とに分離させます。この操作を上槽といいます。熟成醪の時点で或る程度アルコールを添加しております。アルコールを添加せずに搾りました酒を純米醸造酒、アルコールを添加した酒を通常アル添酒といっています。アル添酒の方がマイルドで飲みやすく、市販酒の殆どがアル添酒です。

 上槽直後の清酒はササニゴリしていますが、4〜5日置きますと上の方が澄んで来ます。その澄んだ部分を更に濾過をしまして約60度で加熱殺菌をする。これを火入(ヒイレ)といいますが、火入後タンクで貯蔵します。
貯蔵酒は少なくとも3〜4ヶ月熟成させた後にブレンド濾過し、規格まで割水(加水)して瓶詰出荷されます。


※酒母の種類
日本酒の醸造は、密室で行うわけでもなく、昔から酒蔵という開放系の空間で行っていました。空気中に数多く微生物が存在する中で、先人の素晴らしい英知によって、酵母を純粋に培養する方法を古来よりあみ出されていました。

◆生_系酒母(生、山廃 等)
  1. 蒸米・麹・水を入れると、硝酸還元菌が仕込み水中の硝酸塩を還元して亜硝酸を生成。


  2. 亜硝酸によって雑菌の増殖を防ぎ、麹米に付着する定温性の乳酸菌が、ややおくれて生育
    ※乳酸菌は亜硝酸には強く生育を阻害されない
    ※乳酸菌には「善玉乳酸菌」と「悪玉乳酸菌」があるが、善玉乳酸菌は7度前後の低温でも生育するのに対して、悪玉乳酸菌は10度以上でないと生育しない。そのために「打瀬」という作業によって、6〜8度で善玉乳酸菌の生育を図る。


  3. 乳酸菌が増殖し、乳酸を生成。亜硝酸と乳酸によって有害微生物が死滅。
    ※乳酸菌を増殖させるために、「打瀬」の後に「暖気入れ」によって温度を上げる
    ※硝酸還元菌は乳酸に弱く、徐々に死滅し、亜硝酸も徐々に無くなっていく。
    ※乳酸菌は酸に弱いために自ら生成した乳酸によって死滅していく
    ※こうして、酒母の桶の中は強い酸性となって雑菌が淘汰されていく


  4. 酵母菌は酸に強いので、酵母だけが増殖します。生き残った乳酸菌は酵母が生成するアルコールによって死滅し、多量の乳酸と清酒酵母だけが存在する酒母が完成する。
    ※生は蒸米・麹・水を丹念にすり合わせる「摺り(もとすり)」または「山卸し(やまおろし)」という作業を行いますが、「山卸し」を省いてやや簡略化したもとを山卸し廃止 (通称:山廃 やまはいもと)と言います。


◆速醸系酒母(速醸、高温糖化等)
名前の示す通り手間を簡略化し、人口の乳酸を添加して短期間で造られる酒母です。
0.5%濃度の乳酸を加えた水に麹・酵母・蒸米を加えます。

最近では、高温糖化法、希薄酒母法、超速醸酒母法なども開発されています。



(22) 清酒の級別


 現在、清酒には特級、一級、二級という級別があります。これは酒税法という法律で決められていまして、1Lあたりの税率がそれぞれ違っています。酒は出来上がりました時は全部二級であります。各国税局には級別審査会というのがありまして、貯蔵の桶1本毎にサンプルをその審査会に提出して審査を受け、これは1級以上の資格があるとか、或いは特級以上の資格があるとか、そういった認定がされますと、そこで初めて1級なり特級
にして出せるという仕組みになっています。

 審査員が製品の色を1点、香りを3点、味を6点という配分で点数をつけまして、総計10点満点であります。
各審査員の投票を集計して一定の規格以上なければ、1級、特級にはならないのです。審査員は大体14〜15人で、清酒業界、それから大学の先生、或いは問屋さん、小売屋さんの酒(キキシュ)に堪能な方々が予め国税局長から任命されていまして、年に何回か審査会を開いて級別の認定をします。

 私共にしますれば出来るだけ特級を飲んでいただいた方が有難い訳ですが、税金が大分違いますので、そういう意味から2級を召し上がったほうがお得といえます。只1級、特級と申しますのは国家試験を通ったと申しますか、ともかく国でオーソライズされたものでありますから安心して飲んでいただけるというわけです。2級の場合はそうした審査がないだけに、良いものもあれば、悪いものもあるという事だけは承知していただきたい。良い2級を愛用されれば良いのではないかと思います。


※土田先生の講演当時は、清酒には級別制度というものがありましたが、現在では、アルコール度数と容量で算出が簡単にできる従量税を採用しています。

級別制度は、戦時中の昭和18年に1級から4級までの級別制度が設立されましたが、昭和19年には4級が廃止、翌昭和20年には3級が廃止され、昭和24年(1949年)には、特級、1級、2級に圧縮されました。

そして、平成4年(1992年)3月に特級が廃止され、同年4月より1級、2級が廃止され、級別は完全撤廃となりました。



(23) ウイスキーの級別と清酒の級別


 先程申しましたウイスキーの級の決め方と、お酒の級の決め方は大分違いまして、ウイスキーの場合はあくまでも、スコッチというのが基準になっています。従って日本のウイスキーの目標もスコッチに置いてある。専門的な話になりますが、ウイスキーの香気成分をガスクロマトグラフにかけますと、20%以上モルトウイスキーを入れたものは、ほぼスコッチに近い波形が出てくる。それ以下ではどうしてもスコッチと似たものにはならないと聞いています。

 ですからウイスキーの場合はこういった目標というものがあるから非常にやり易い。清酒の場合は全く独特の方法で数学的な規格というよりも、むしろ官能検査によって定められています。そこで次に酒について少しふれて見たいと思います。



(24) 酒について(色)


 色は余り濃いものはよくありません。その理由は精白度の低い、黒い米を使ったり、醪の管理がよくなかった、品質の悪い酒は一般に着色度が高い。最近は活性炭素を使いまして、濾過したりしますが、悪い酒は瓶詰して出荷しましてから日数が経つにつれまして、劣化といいますが、悪くなる度合いが早いわけであります。それぞれ瓶に何日に詰めたかというのが書いてありますから、古いものでも余り色の濃くなっていないものはよい酒と
いうことがお判りになると思います。


※清酒の本来の色は黄金色です。最近の清酒の透明色は活性炭素による濾過によるものです。最近では、 わざと炭素濾過を全くしない(無濾過酒)か、炭素濾過をあまり行わない酒が発売されていますので、一概に「色があるから古い酒」とは言い難くなってきています。

清酒が古くなっても、同様に黄色(茶色)がかってきますので、混同しやすいのですが、疑問があればメーカーか酒販店に問い合わせると良いでしょう。



(25) 酒について(香り)


 次に香りは所謂発酵香、どちかかといえばフルーティな香りのあるものが良いとされます。瓶詰して古くなって参りますと、中国の紹興酒に似た香りが段々強くなって来ます。私共はこの香りを老香(ヒネカ)または瓶香(ビンカ)といっています。清酒に日光光線時に紫外線が当たりますと、アミノ酸が変化してこうした老香をつけて来ます。最近一升瓶の青色が茶色に変わってきていますが、これはこの紫外線を防ぐためです。



(26) 酒について(味)


 清酒の味は一般的に甘、酸、辛、渋、苦の5つの味の調和によって形成されているといわれています。甘みはブドウ糖を主体としたもの、酸はコハク酸、乳酸から成り、辛味は塩辛いのではなく、アルコールの刺激味です。渋味、苦味は大体アミノ酸から来る。こういった五味が混然調和している酒がよい酒といわれています。更にそれだけでなく、それに旨味(ウマミ)がなくてはいけません。



(27) 酒について(旨み・綺麗さ・雑味)


 旨みは例のコンブダシ、鰹ダシに似た味です。五味が調和していても旨味のない酒は駄目です。例えば合成清酒などは清酒に比べて旨味が乏しいといえます。もう1つの味として綺麗さ、雑味というものがあります。雑味の少ない酒をキレイな酒といいます。
 
 例えば黒砂糖で作った饅頭と白砂糖だけで作った饅頭との相違を考えていただければよいと思います。両方の饅頭の糖分が同じ場合、どうしても雑味の多い黒砂糖の饅頭は多くは食べられない。白砂糖の饅頭は、あっさりしているので、いくらか沢山食べられるわけです。いわばこの辺の違いがやはり酒にもあるわけです。しるこに塩を入れたり、スイカに塩をふりかける。これは雑味で濃味を強調しているのでありまして、少ない量を食べて
満足感を味わう時はその方が良い。従って雑味というものは或る程度必要なわけであります。その辺のかねあいが酒の場合は難しいと言えるかと思います。私共としては、あくまで綺麗な酒を出来るだけ沢山飲んでいただき、飽きの来ない酒を造るというのを目標にしています。



(28) 日本酒の甘辛


 次に甘口、辛口ですが、これは日本酒度という数値で表示しています。日本酒度を計るには日本酒度計を用いますが、これは比重計の一種にボーメ計というのがありますが、このボーメ計の度数の1度を更に10度に拡大して作られたものが日本酒度計で、プラス マイナス 零を基点にしてマイナス度の高いほうが甘い、プラス度の高いほうが辛いという風に決められております。

 ですから、酒の甘辛はマイナス何度とか、プラス何度とかで示します。お酒の糖分は大体3〜4%です。まあマイナス、プラス、甘口、辛口と申しますけれど、非常に僅かな量でありまして素人の方ですと日本酒度で少なくとも6〜7度の差がなければ、どちらが甘いか辛いかの判別は難しいようです。



(29) 酸度と甘辛


この様に、甘辛の基本は日本酒度ですが、更に酸というものが甘辛に微妙な影響を与えます。一般的に日本酒度を一定にして、酸を多くしますと、辛口にけます。逆に酸を少なくしますと甘口にけます。



 その表の左から右へマイナス度、下から上へ酸度、夫々少ないものから多いものを取りますと、大体上にあります酒というものは、つまり日本酒度がマイナスが多くて、そして酸度が多いもの、これが標準の辛口になります。右側の半分が濃醇甘口になり、下側は端麗型でありまして、左側が辛口、右側が甘口となる。大体そのように分類できます。そういうことで、甘口、辛口を私どもは区別しておるわけであります。

 また冷酒と燗酒でも大分違って参ります。同じ酒でも燗酒、特に熱燗に致しますと、一層辛口にけます。
又その時に召し上がる酒の肴によっても、これは変わって来るわけです。



(30) 酸と熟成


 酸と熟成について少しふれて見ます。清酒の酸は1.4〜1.6くらいですが、出来たての清酒は余り美味しくないというのは、酸味が離れるといいますか舌に刺激的に作用するからです。2ヶ月〜3ヶ月置かれることに従って、熟成が進んで酸味が調和して来る。ブドウ酒なども同じで、ブドウ酒の酸は7〜10くらいですが、熟成によって味が円くなってきて、いわゆる酸っぱ味がなくなってくる。

 紹興酒などになりますと、これは日本の清酒と違いまして、醪にある菌も日本酒のそれと違い且つ菌学的にも余り純粋とはいえず、非常に酸度が多いのですが、ああいう風に甕の中で3〜5年貯蔵される間に酸味というものが円くなってくる。これが熟成の重要なところです。ですから甘口、辛口とこの酒はどちらかと聞かれましても一概には答え難いというのが実情であります。



(31) 酔っぱらい度


 まあ、一般的には日本酒度のマイナスが甘口で、プラスの方は辛いということはいえると思います。段々時間が参りましたので、最後に「酔っぱらい度」について一寸申し上げて終わりたいと思います。これはまあ、私の申し上げる範疇ではなくて、お医者さんの分野になるわけですが、アルコール度数で考えますと、清酒1合が、ビール瓶大瓶1本、これはウイスキー、ブランデーのダブル1杯という位のアルコール分に相当します。

 お医者様によりますと、大体アルコールは胃袋からは20%、腸から80%吸収されるとの事です。だから、その酔っぱらい度というのは、結局単位時間に飲むアルコールの量、これに従って早く酔うか酔わないか決まって参りますし、胃袋の中に食物が入っているかどうか、即ち空きっ腹で飲むかどうか、これによって吸収の速度が違ってくる。それによって早く酔払うか酔払わないかが決まる。

 まあ大体、日本人というのは昔からプアーな人間と思うのですが、枡の端っこに塩をのっけて、それを肴に飲む。これは封建時代にはお米というものが貨幣の代わりで非常に高かった。それで一般庶民の口にはなかなか清酒というものは入らなかった。それをなるべく少ない量で、多量飲んだ如く酔払いたいという場合には出来るだけ腹を空かせて飲む。これは早く酔払う秘訣だと思いますけれども、飲み方としては関心できない。
ですから十分召し上がりながら、ゆっくり飲んでいただくというのがよい。只あまり飲みすぎては良くないので、二日酔いについて申し上げておきます。



(32) 二日酔いについて


 大体、これも医学の方から知恵を拝借致しますと、アルコールの新陳代謝される量は、約1時間に、人によって違いますが一般に100%アルコールで8mlだそうです。これは当然一旦、アルデヒドに変わり、それが酸に変わる。更に炭酸ガスとなって、逃げ出してゆくわけですけれども、当然人によっては、汗や尿などによっても排泄されます。

 ですから、なかなか難しいと思いますが何時位迄に、どれ位の量を飲み、それ以後は飲まないというのが、二日酔いにならない秘訣であります。巷間よくビールを飲み、ウイスキーを飲み、或は清酒を飲む、チャンポンしますと二日酔いになるといいますが、あれは実際はそうじゃありません。チャンポンで二日酔いになるということは絶対にありません。寧ろチャンポンをするような時は、次から次へと梯子をかけるので段々量が多くなる。更には寝る時間が遅くなる。奥さんに怒られる・・・という風になって、余計に頭が痛くなるのではないかという風に考えています。

 以上とりとめのない話をいたしましたが、丁度時間となりましたので、これで終わらせていただきます。

<<前へ 土田亨先生の略歴>>

このページのTOPへ戻る



個人情報保護方針